神経難病に関わるSTが緩和ケアやリハビリテーションについて考えてみました。

気付けば3か月も更新がなくなっていました。
ちゃんとまだ生きております。
昨年同様、今時期は来年の学会のエントリーや研究助成金の申請、実習生など色々立て込む時期でしてそちらの方に追われております。

さて、そんな中今日はリハビリテーションや緩和ケアについて少し考えてみました。

2015.11.8更新

まず、リハビリテーション(rehabilitation)の定義について少し復習。

WHOの定義(1981)では…
リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。

また、当時私が学生のころ健康の定義について習ったとき(古い訳)は…
「健康とは、完全な肉体的、精神的お及び社会的福祉の状態であり、單に疾病又は病弱の存在しないことではない。」これもWHOによる定義だが、これを真に解釈するには原文を理解する必要があると思われる。
原文は以下である。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

「健康」はperfect(完璧な)なものではなくcomplete(全部そろった)ものである。そのために「疾病または病弱でもよい」としている。全部というのは3つでありphysical(肉体的) mental(精神的) social(社会的)にwell-being(うまくいっている状態)である(漆畑 2015)。

日本WHO協会は訳しなおしている。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」
原文を読んでから見るとかなりこっちの方がしっくりくる気がする(でもまだ中途半端な気もする)。
言葉の本来の意味はネイティブにしかわかりませんがこれは言語を扱う言語聴覚士にとっても肝に銘じておくべきではないでしょうか。

ところで、上田氏によるとリハビリテーションの基本的な考え方にプラスの増大による「人生の質」の向上とし、さらにこう続けている。「人間らしく生きる権利の回復とは必ずしも元と同じ生活状態を回復することではない。むしろ多くの場合は障害を契機として新しい人生を建設することである。苦難の経験はしばしば人間をくじけさせるが、またしばしば人間を高め深め、成長させる。」といっています。
リハビリテーションの語源(wiki)はラテン語で、re(再び)+ habilis(適した)、すなわち「再び適した状態になること」、「本来あるべき状態への回復」などの意味を持つようですが、文の末尾から読み取るに語源を超えてリハビリテーションを解釈しているように思います。
しかし、上田氏の解釈は非常にしっくりくるし、そうあるべきであると私も思います。

更に、タイトルにもあるように緩和ケアのWHOの定義(2002)「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである。(日本ホスピス緩和ケア協会訳)」

緩和ケアは終末期のケアではなく、人生の終末にむけてのケア(Palliative Care is care for the end of life, not just at the end of life)である(高橋 2015)。

など、ここまで定義など抽象的なことばかり書いてきました。
進行性疾患であり根治が現状不可能な神経難病に苦手意識を持っている言語聴覚士も多くおられるでしょう。
私もその一人です。
しかし、上記の文章を読んでいるとおのずと行うべきことは見えてくるのではないでしょうか。
困ったときは偉大な先人たちに学ぶことが良いと思います。

さて、最後に実数的な研究を提示します。
専門チームによる緩和ケアを受けたALS患者は、一般的な神経内科病院でケアされた場合より同じ治療薬を投与していても7.5ヶ月生存期間が延長した(Traynor 2003)。

これは驚くべきことです。
唯一認可されているALS治療薬のリルゾールの生存延長期間よりも長かったのです。
私たち言語聴覚士にはまだまだ、学ぶべきこと行うべきことがたくさんあるように思います。

以上、抽象的なことが多く読みずらかったと思いますが最後まで読んでいただきありがとうございます。
それでは今日はこの辺で失礼いたします。

関連書籍
1)神経難病在宅療養ハンドブック―よりよい緩和ケア提供のために
2)終末期の摂食嚥下リハビリテーションー看取りを見据えたアプローチー (MB Medical Rehabilitation(メディカルリハビリテーション))

文献
1)Traynor BJ et al: Effect of a multidisciplinary amyotrophic lateral sclerosis (ALS) clinic ALS survival: a population based study, 1996-2000.2003.
2)漆畑 眞人:神経難病と新しい難病法とのかかわり.難病と在宅ケアVol.21 No.8 2015.11
3)荻野美恵子:QOLの維持を目指した緩和ケア.難病と在宅ケアVol.21 No.8 2015.11
4)髙橋和也:神経内科医からみた難病の緩和.難病と在宅ケアVol.21 No.8 2015.11
5)上田敏:目でみるリハビリテーション医学

toshiakitamura について

言語聴覚士 (speech ranged and hearing therapist: ST)、LSVT LOUD 認定療法士、日本言語聴覚士協会 専門講座修了 【所属学会】 日本言語聴覚士学会 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 高次脳機能障害学会 日本ディサースリア臨床研究会 【実績】http://jglobal.jst.go.jp/search.php#{"keyword":[""200901100570826991""]}
カテゴリー: リハビリテーションrehabilitation, 神経筋疾患, 筋萎縮性側索硬化症, 言語聴覚士 タグ: , , パーマリンク

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